伝統芸能の足袋
Traditional Japanese entertainment and Tabi


 この項では、数多く存在する“日本の伝統芸能”の中でも、その分野のプロが存在している歌舞 伎、能、狂言や日本舞踊、雅楽などで使用される足袋について取り上げることとする。
 伝統芸能と聞くと、多くの人が思い浮かべると思われるのが歌舞伎であるが、当然ながら歌 舞伎にも数多くの足袋が使用されている。歌舞伎における足袋使用の規定は、江戸時代中期以降に 決められたものと言われている。当時は、一般生活から礼装、芸能に至るまで身分や時節によって 着物の色柄や足袋の着用に対し厳しい規定が設けられており、派手になりがちな歌舞伎の衣装もし ばしば規制の対象となったが、その中でも独自の美意識を反映し、現代まで受け継がれている衣装 や色柄の伝統が構築されてきた。

 歌舞伎の場合、その役柄に応じて色や形の異なった足袋が使用される。例えば歌舞伎の中で も人気の高い「助六」は、黒紋付に真っ赤な襦袢(じゅばん)という華やかないでたちで舞台に登 場し、その足元には鮮やかな黄色(卵色と呼ばれる)で2枚鞐の足袋を履いている。これは、江戸 期の庶民が思い描いていた“粋な男の姿”が体現されたものと言われており、黒、赤、黄という原 色系のコントラストに、江戸後期から明治期にかけて流行した鞐の枚数が少なく足首の見える足袋 が用いられている。

歌舞伎座の裏口
干してある烏足袋
惜しまれつつ閉鎖となった歌舞伎座
…の裏口(?)何か干してありますね
裏方さん用?ばっちり、烏足袋です
新歌舞伎座ではどうなるのか

 その他にも、奴と呼ばれる2枚目役は紫の足袋を用い、裃などを着けた武士の 場合は白足袋、鎧をつけた武士は、革足袋に似せた小紋の柄足袋、町人の場合はそれぞれ紺足袋、 黒足袋が多く使用され、足袋を用いず素足で登場する役柄もある。また、農民の役で足袋を用いる 場合は、濃い浅黄(あさぎ)色が用いられ、源氏物語など公家役には、歌舞伎の世界で“丸足袋” と呼ばれている襪を用いることもある。一方女性役の場合は、白足袋や素足が多い。歌舞伎に使用 される足袋は、その流派や演目によっても異なるが、江戸期の美意識を表し、身分による習俗をあ る程度残していると言える。

 また底が黒色の烏(鴉)足袋は、歌舞伎を上演する際に裏方として重要な役割を持つ黒衣 (黒子)が用いている。黒衣は舞台上で目立たないように全身黒の衣装を着ており、そこに底が 白い足袋を用いるとその部分だけが目立ってしまうため、底が黒い烏足袋が用いている。烏足袋 は歌舞伎の黒衣と同様の衣装を用いる文楽の人形遣いの方にも用いられる。また黒子というと全身 黒ずくめなイメージがあるが、例えば場面が雪の場合には全身白の衣装で、水の場面には水色の衣 装で登場することもある。その場合には、それぞれ目立たない白足袋や水色に染められた足袋を用 いる。

能を上演中
洋服の方も全員白足袋を履いています

 舞台の上で幽玄の世界を繰り広げる能や狂言にも足袋が用いられる。多くの能舞台では、舞 台に上がる際には必ず足袋を着用しなくてはいけないという規定を設けている。その規定は、演 者や舞台の準備、能楽堂の管理をしている方だけでなく、能舞台に上がる全ての人に着用が求めら れており、例えば見学会で能楽堂を訪れた人々は、洋装であっても足袋着用が求められる。これは 、檜(ひのき)でできている舞台床を汗や汚れから保護するという現実的な意味合いと、神聖視さ れている舞台に上がる際には、裸足ではなく汚れのない純白の足袋を用いるという考え方や、足袋 を履く事で舞台上での緊張感が得られるという精神性を帯びているといわれている。能を舞う場合 は通常白足袋を用いる。能に用いる白足袋は、肌が出ないように踵の部分を深く縫い合わせてあり 、足元をやわらかく見せるためネル裏のものが多く用いられている。檜舞台の上で、きらびやかな 衣装を身にまとった能楽師の足元にのぞく純白の白足袋は、舞台全体を凛と引き締める役割を帯び ているようにみえる。

 一方狂言では、狂言足袋とも呼ばれる狂言専用の足袋を用いる。流派により異なるが、 白か黄色に薄い黄色、もしくは薄茶色の縞が入った縞(しま)足袋で、底も通常の足袋とは異なり 黄色であるため、遠くから見ると完全に黄色一色の足袋に見える。縞のない薄い黄色一色の足袋を 用いる流派もあるが、その色合いは歌舞伎助六で用いる鮮やかな卵色の足袋より淡く、見た目の違 和感も少ないものである。これは、能や狂言が芸能として確立した頃に、能には白に染められた鹿 の革足袋が用いられていたのに対し、庶民の芸能であった狂言には白足袋が許されておらず、色の 染められていない革足袋が用いられていた名残であると言われており、三番叟、釣狐など特別な舞 台には、現在でも革足袋を用いる流派もある。縞模様があるのは、鹿革の保護や耐久性向上のため に松葉を差して燻し鹿の子模様にした名残や、糸を差して革を燻していた名残であると言われてい るが定かではない。
 能や狂言は稽古事としてたしなむ方も多く、特に特殊な狂言足袋の場合は、東京のとある老 舗足袋店(※1)が素人からプロまで足袋をほぼ一手を担っていた。しかしその足袋店が数年前に閉 店し、他の店でも狂言足袋は作られているものの流派などにより微妙に色柄が異なるため、狂言家は 狂言足袋の入手に苦労しているようである。

狂言足袋@日本はきもの博物館
狂言足袋@東京老舗足袋店
狂言足袋
これは白に薄黄色の縞がはいったもの
老舗足袋店で扱われる狂言足袋
プッシュすると見やすい写真がでます

 日本でもっとも歴史がある芸能であると言われる雅楽や舞楽では、足袋だけでなく 襪が用いられることもある。これは、雅楽や舞楽が足袋の登場するより前、すなわち襪の時代に成 立したものあり、またその伝承者が装束や襪を用いてきた貴族階級であったためである。動きのあ る舞楽には革の襪を用いることもあったと言われている。しかし、雅楽を本職とされている方は別 として、現在趣味や神社、祭りの活動として行う雅楽の演奏には、手に入れにくい襪ではなく、白 足袋を履いて行うことが多い。

 伝統芸能の方にとって、足袋は重要な衣装の一つであるため、多くの演者の方は老舗足 袋店に自身の足の木型があり、誂えた足袋を使用している。また鞐の枚数が多い足袋の方が動きや すく、舞台の場合は見栄えもいいため、一般的にはあまり出回らない5枚鞐のものも多く使用され ている。舞台上での足元の動きやすさ、滑りにくさから、革足袋を好んで用いる方もいる。

 また、舞台をセットする大道具や小道具など、芸能の裏方に従事される方は、Tシャツな どを着ていても足元は足袋に雪駄(せった)履きといういでたちのことが多い。これは舞台に上が る機会が多いため、脱ぎ履きしやすい足袋に雪駄履きが好まれていると考えられる。汚れが目立ち にくい烏足袋や丈夫な石底足袋が好んで用いられているが、役者が舞台で使用していたのもので、 汚損し舞台上では使用に耐えなくなったものを使うこともある。

※ 写真は全て撮影可能な所で撮影。写真のご提供をお待ちしておりますm(_ _)m
※1 供給量の関係から、このホームページに老舗足袋店様のお名前を露出することはでき ませんので、“どうしても知りたい!欲しい!”と言われる方はメールにてお問い合わせください。





<取材協力:日本はきもの博物館様>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送