地下足袋は、作業用として現在でも街中でよく見かける足袋の一種であるが、その起源は
江戸時代以前に作業用として用いられていた革足袋や、刺子(さしこ)の足袋であったといえる
。当時の人々は、裸足、もしくは素足に草鞋履きで作業を行うことが一般的であったが、足の保
護や運動性を確保するため、丈夫な革足袋や刺子足袋を履いて作業を行う場合もあった。江戸時
代中期頃には、それまで主流であった革足袋にに変わり、室内履きとしての布製の足袋が普及し
、礼装や保温用としての役割を持つ布足袋と、足の保護や作業用として用いられる革足袋との役
割の違いが明確になったため、作業用として屋外で使用される足袋のことは、新たに沓足袋、足
袋沓とも呼ばれるようになった。当時の革足袋や刺子足袋は、丈夫にするために底部分を二重に
したり、底部分のみ革を貼るものもあった。作業用の足袋については、史料も乏しく詳しくは明
らかになっていない。
地下足袋の起源についても諸説があり、明治15〜16年頃に、神田末広町の足袋店が底
にゴムを縫い付けた足袋を発売したのが始まりという説があるが、明治始めごろに近畿、中国地
方で足袋にゴムを縫い付けて作業に使用する人々が現れたのが始まりともいわれている。明治中
期頃には次第にゴム製品も普及し始め、旧来の革の代わりとして各地で布足袋の底にゴムを縫い
つけた足袋が発売されたといわれているが、当時のものは旧来の刺子足袋や屋内用の足袋にゴム
を縫いつけたものであったため、強度が弱く爆発的な普及には至らなかった。地下足袋が爆発的
に普及したのは、大正時代に福岡県久留米市の足袋会社(現・朝日コーポレーション・月星化成
、タイヤ製造大手ブリヂストンの前身でもある)が、それまでより強度の点で有利であり、現在
ものとほとんど製法が変わらない“貼り付け足袋※”を発売し
、特に鉱業に従事する者に対し地下足袋の優位性を説き、全国的な販売を始めたからであるとい
われている。ちなみに“地下”足袋というのはこの会社の登録商標であるが、“ウォー■マン”
と同じく、現在では普通名詞のように使用されている。
※貼り付け足袋と言っても、現在発売されている“縫いつけ足袋”と同じように、
底を貼り付けた上で改めて底と布を縫い付ける、縫いつけと貼り付けを併用して製造されたもの
であったと考えられる。
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戦前に用いられた地下足袋
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戦前に用いられた地下足袋
こちらは防水加工がされています |
当時はまだ靴や長靴が高価であった上、足袋の形をした履物の方が人々になじみがあ
ったため、地下足袋はそれまで作業に使用されてきた草鞋や革足袋、布足袋に変わり大いに普及
し、作業には欠かせない物になった。農作業や鉱業、土木作業に用いられるようになったのはも
ちろん、街名での軽作業にも地下足袋が用いられるようになり、日常生活や作業に欠かせないも
になるほど地下足袋が普及した。1970年頃までは、小学校の運動会にも運動靴代わりに地下
足袋や足袋が使用される場合があった。また戦前期までは、地下足袋は鞐の枚数が3枚から5枚
の短いものが主流であったが、戦後期頃に地下足袋と脚絆を一体化した、鞐の枚数が多く筒が長
い地下足袋が開発された。現在作業に使用される地下足袋の主流は、鞐の枚数が7〜12枚もの
である。その後、新しい地下足袋も開発され、山道などでも歩きやすいスパイク足袋や、農業用
に全体がゴムで出来た地下足袋も発売されるようになった。
しかし、高度成長期以降、ゴム製品である長靴やスニーカーが安価で手に入るようになる
と“旧来的な地下足袋は古臭く泥臭い”というイメージも重なり、一般的な軽作業にはスニーカ
ーや長靴が用いられるようになり、次第に地下足袋は衰退していった。また、、また足元の安全
意識が高まるにつれ、土木作業や鉱業にも安全靴が用いられるようになっていった。しかしその
後も新たに底に靴の利点を取り入れ、安全性、防水性と足袋の動きやすさを併せ持ったジョグ足
袋が開発されたり、踏み抜きによる足の怪我を防止するための、爪先や底に鉄を入れた安全足袋
が開発され、作業に使用されるようになった。これは、スニーカー、長靴や安全靴では足の感覚
が鈍るため、足先の感覚を重視するために設計されたものである。
さらに近年では地下足袋に対し“見たことがないデザインで新鮮”と感じる若者が増えて
きたためか、日常生活で靴の変わりに使用できる、デザインされた地下足袋も発売されるように
なり、新たな用いられ方として、地下足袋が日常履きに用いられるようになった。その他にも鞐
の使い方を知らない世代に向けたファスナーやマジックテープで留めるタイプの地下足袋、運動
性を高めるため、地下足袋のように指が割れた靴、硬いアスファルトの地面で運動しても腰を痛
めないよう、底にインソールやエアーの入った地下足袋など、技術の向上により靴と地下足袋の
融合がますます進んでいる。街中ではなかなか見かけなくなった足袋とは異なり、現在でも祭り
に作業に、日常生活にしっかりと根付いている、それが地下足袋である。
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